東京高等裁判所 昭和59年(ラ)492号 決定
民事執行法一八八条で準用する同法五五条一項は、債務者又は競売不動産の所有者(以下この両者を含めて単に所有者という。)が当該不動産の価格を著しく減少する行為又はそのおそれがある行為(以下これらの行為を単に「価格減少行為」という。)をするときは、執行裁判所は所有者に対し保全処分をすることができる旨を規定している。ところで、競売開始決定による差押えは、所有者が通常の用法に従って不動産を使用又は収益することを妨げないのであり(同法一八八条、四六条二項)、抵当権実行においては差押当時における抵当不動産が有すべき担保価値が現実化(金銭化)されれば足りるのであるから、所有者の行為が右のような使用収益の範囲内のものであり、かつ当該不動産が差押当時において有すべき担保価値を著しく減少させるものでないのであれば、不当に不動産の価格の引下げを目的とする等特段の事情の存しないかぎり、前記法条の「価格減少行為」には該当しないものと解するのを相当とする。
右の見解によって、本件をみるに、本件土地の所有者である右伊藤が右地上に建物を再築することをもって、右法条にいう「価格減少行為」には該当しないものといわざるをえない。すなわち、本件土地上にはもともと本件建物が存在していたのであるから、本件土地の所有者がその地上に建物を再築することは本件土地を通常の用法に従って使用するものといわざるをえず、また、本件根抵当権の設定当時、右伊藤は本件土地上に本件建物を所有していたのであるから、本件土地については抵当権実行によって本件建物のために法定地上権が発生することが予定されており、したがって、本件土地の有すべき担保価値は本件建物のために予定される法定地上権によって制約を受ける範囲のものにとどまるのであり、このことは、差押当時地上の本件建物が滅失していたことによって変るものではないのであって、仮に本件土地上に建物が再築され、抵当権実行によって本件土地上に再築建物のために法定地上権の負担(ただし、その範囲は本件建物のための法定地上権の範囲に限局される。)が生ずることとなったとしても、本件土地の担保価値が著しく減少するものというをえないからである。
(柳川 三宅 林)